近詠

岡田隆太郎

仲哀帝の仮寓跡

和菓子屋は尼子の裔や柏餅

萍の砦の堀に生ひ初むる

タンカーのゆつくり廻る青葉潮

葉桜や仲哀帝の仮寓跡

魚市の隅にて販ぐ夏野菜

昼網の放送浦の漁協より

夢の世に遊んで戻る昼寝覚

木下紀子

沙羅の花

和やかに庭のふくらみ若楓

大藤や紫の香の風に乗り

蒼天にむらさき放ち藤の花

若葉雨原爆ドーム黙深し

一輪のこころを洗ふ沙羅の花

あぢさゐの紫紺に一日はじまりぬ

夏蝶の庭のみどりに溶けゆけり