今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

2025年1月の俳句

華凜主宰の俳句

画集の中の女たち

 東郷青児展

冬麗や画集の中の女たち

冬の朝水を重ねし空の色

朝靄や喫茶ソワレの青き玻璃

冬日さし紅葉浄土や真くれなゐ

顔見世や花簪に役者の名

座に遊びいただく蜜柑芸妓剥き

道行の赤きショールに紙の雪

湯豆腐や死ぬの生きるの言ひし仲

かいつぶり月を揺して潜りけり

雑詠 巻頭句

敦盛の能果て城は虫の闇

足達晃子

句評 平家物語の仲でも「敦盛」は最も哀しく美しい。作者は明石城の
野外能を観たとのこと。能が果て篝火が消えると辺りは「虫の闇」に
包まれる。能の余韻が虫の声と共に広がる。 華凜 

雑詠 次巻頭句

御所に吹く風ごと剪られ花芒

小林一美

句評 ある日の「諷詠会」でのこと。属目席題として奈良の御所から
山形ご夫妻が花芒を持って来てくれた。高々と生けられた花芒は風に
靡いているよう。その瞬間を見事に写生された。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

唇に指立て小鳥ゐる合図

谷川和子

中谷まもる副主宰選

高野へと千の落葉の色を踏む

林 右華

金田志津枝選

秋風を友とし巡る戯画絵巻

菅原くに子

柳生清秀選

朝寒や振り子時計の螺子を巻く

中村雅子

同行二人競詠五句 お題「新年詠」

土岐洋子

年新た

年新た干支の置き物いき返り

とんど焼く仕来り守る男衆

農機具は父の手づくり注連飾る

仏膳に御神酒そなへるお元日

常日頃の暮しに戻す松七日

中村雅子

初明り

正月や船名太き大漁旗

海光る筏の下の牡蠣重き

早起きの厨の窓に初明り

ごまめあてに積る話の父と子や

泣初の子に父の膝母の膝

2024年12月の俳句

華凜主宰の俳句

声の記憶

栗剥いて妻をさみしと思ふ夜も

十三夜声の記憶の辻にあり

枇杷咲くや遊女屋にある天女池

見返るは惜しむことなり一葉忌

早世の人に捧げむ冬薔薇

萩の風明治の俳徒みな若し

柿吊す神を迎へし道の辺に

根の国の音近づけて瓢の笛

白足袋の見ゆる八岐大蛇かな

雑詠 巻頭句

思ふとは別れたること思ひ草

金田志津枝

句評 「思ひ草」に心が重なった物心一如の句。人は出会い、いつか
別れが訪れる。思い草の名に姿にこの世の定めを見た作者。
深い句である。 華凜 

雑詠 次巻頭句

居待月天の岩戸のやうに雲

吉田るり

句評 『古事記』の天の岩戸伝説を句に用いたことで月の出を待つ空、
そこに懸かる厚い雲が突然神話のように感じられる。アマテラスは
太陽神。月の句としては類を見ない面白い比喩。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

月の供華十八畳を開け放ち

山形惇子

中谷まもる副主宰選

炎天を走るお帰り言ひたくて

浅野宏子

金田志津枝選

透明な水を吸ひ上げ曼珠沙華

𠮷田知子

柳生清秀選

染み黒きつなぎのままの夜学生

大見 康

近詠

下田育子

サロマ湖

オホーツクに向ひ馬鈴薯掘り進む

地平線まで唐黍の続きをり

薪を積み網走はもう冬仕度

秋晴や満員なりし摩周号

珊瑚草能取の秋の真つ盛り

サロマ湖の澄む天空の鏡かに

名月や北の果てにて旅終へる

冨田忠夫

名月

名月とまづ記したる日記かな

周防灘凪ぎて名月昇り来る

二の宮に宝刀飾る良夜かな

名月や近江女の面に紅

四王司山の山影浮かぶ望の月

ロードショー余韻残して居待月

長編の終章間近寝待月

2024年11月の俳句

華凜主宰の俳句

如意輪観世音菩薩

口元の西施がごとく秋扇

秋草のいづれ雨夜の品定め

月光に如意輪観世音菩薩

月今宵人は余命の中に生き

港より離れいつしか月の船

水の秋夕日の濃かり船着場

風の芒月の芒となりにけり

一首添へ送る文など秋扇

藤袴風やはらかく女坂

雑詠 巻頭句

照らすより灯る明るさ盆の月

林 右華

句評 月光はこの世をあまねく「照らす」もの、というイメージで
あったが、この句によって盆の月に作者の心が重なり、灯る明るさに
祖霊の御魂が宿っていることが感じられた。見事である。 華凜 

雑詠 次巻頭句

ふる里に清き水あり祭笛

古山丈司

句評 作者は福岡のご出身。美しい川の流れと田畑の景色が祭笛の音と
共に見え、聞こえてくる。最も大切な変わることのない思い出が今も
読み手の心を捉える。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

大輪の芙蓉夕日をたたみけり

足達晃子

中谷まもる副主宰選

香水を纏ひ母にも敵あるか

石村和江

金田志津枝選

ため息のやうに落ちけり桐一葉

石田陽彦

柳生清秀選

新札に人見知りして生身魂

石村和江

同行二人競詠五句 お題「茶の花」

信貴 宏

葉隠れ

茶の花や堺にうまき菓子ありて

茶の花の白きを誇る南宗寺

茶の花や介護に戻る母の家

丹波路の土産は嬉し茶の花よ

葉隠れに茶の花ひそと君が家

丸田淳子

丹波焼

躙戸をガタゴト開けて入る小春

茶の花に床窓よりの日の白し

茶の花は一輪で良し丹波焼

初冬の一服の刻流れゆく

茶の花の話は尽きず二服めを

2024年10月の俳句

華凜主宰の俳句

祇園めく

稲光散骨の海彼方なり

吾亦紅石積むだけの鳥の墓

秋簾そろりと訪ね来るひとも

上京の月にさぶしき桔梗かな

祇園めく新橋色の秋扇

女郎花二階の奥の隠し部屋

晴の日は雨の紫菀に情寄する

菩提子の舞うて三界六道に

虫入りてより虫籠の濡れてきし

雑詠 巻頭句

月鉾の月を迎へる高さまで

菅 恵子

句評 祇園祭の鉾の中でも最も心惹かれる「月鉾」。その高さは二十六
メートルと山鉾の中で一番高い。鉾先の三日月が美しく輝く。「月を
迎へる高さ」の措辞が素晴らしい。 華凜 

雑詠 次巻頭句

廓跡巡りし夜の髪洗ふ

金田志津枝

句評 吉原の廓跡を吟行し、作者の心にはさまざまな思いが生れたので
あろう。女が髪を洗うとき、思いも共に洗い流す。哀しみであれば尚。
華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

星燃えて鬼百合ばかり咲く野かな

吉田知子

中谷まもる副主宰選

追山笠の雨の中なる浄め水

梅野史矩子

金田志津枝選

父と世を隔てし夜の蚊遣香

古山丈司

柳生清秀選

夏の朝パン屋の隅のイートイン

中松育子

近詠

山形惇子

おんぱらさん

桜井におんぱらさんといふ祭

のしかかる笙篳篥に蝉の声

浦安の舞の鈴の音夏越祭

菅貫や飾神馬を先立てて

色香よき楕円の茅の輪ありがたう

三輪音頭揃ひ浴衣の有志連

祓戸は三輪の馬場先夏越祭

石田陽彦

夏の色

形代の白さに心澄み来り

理由なき反抗と言ふ夏のあり

太陽に対峙せし赤百日紅

茶のスーツ脱ぎ透明な羽の蝉

紫の雲の棚引く夕焼かな

サングラス掛けて景色の静りぬ

一晩を蚊取線香燃え尽す

2024年9月の俳句

華凜主宰の俳句

百日紅

その中に生も死もあり百日紅

人偲ぶ風の来てをり風蘭に

桃すする女見てゐる男かな

妻ありて花魁草に触れもして

合歓の花風を孕みて眠るころ

 七月十八日姫孫誕生

夏の月指美しき娘に生まれ

甚平着て一才にして兄となる

ひぐらしやまだかろき子を抱き上げて

街の灯は一つづつ消え盆の月

雑詠 巻頭句

蛍忌の蛍の描く黄の世界

中谷まもる

句評 先師立夫への存問の句。六月二十六日の蛍忌に絵を描くこと、
黄の好きだった立夫を偲ぶ作者。蛍の光は黄泉の世界へと誘うよう。
華凜 

雑詠 次巻頭句

晴れてゐる水の世界の水中花

下橋潤子

句評 俳句は物を見た時の作者の心が言葉を選び、一句となる。「晴れて
ゐる水の世界」の措辞に明るい作者の心と水中花の世界を見た。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

男こそ泣けることあり雲の峰

古山丈司

中谷まもる副主宰選

仏壇の父と目の合ふ冷奴

古山丈司

金田志津枝選

ふるさとの賢治の銀河浴び涼し

川上康子

柳生清秀選

時の日や駄菓子屋に鳴る鳩時計

下田育子

同行二人競詠五句 お題「コスモス」

宮川建子

押花

揺れるたびコスモスの色増えてゆく

コスモスの風を掴むといふ仕草

さりげなく風はコスモス撫でてゆく

コスモス畑の色を纏ひて人やさし

コスモスの揺れゐる姿押花に

花谷 文

風を追ふ

コスモスや昔馴染みの理髪店

料理書に母のメモ書き秋桜

コスモスに囲まれてをり無人駅

其々に風を追ひたる秋桜

コスモスの揺れて旅先案内人