今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

2024年4月の俳句

華凜主宰の俳句

夜のミモザ

涅槃図の満月にして空かなし

よく香る江戸紫のヒヤシンス

山峡のすこしく動き雪割草

夜のミモザ月の鼓動に眠られず

つれずれに画集めくりて春の風邪

どことなく雨むらさきに立子の忌

冴返る日の一献は父に酌む

歳時記に日月美し桃の花

沈丁の香に常の日の常ならず

雑詠 巻頭句

空開けてありしか春を待つために

柳生清秀

句評 春を待つという明るい未来への祈りの心が「空開けてありしか」
という宇宙の広がりを引き寄せ一句となった。素直な心で四時を友とす。
華凜 

雑詠 次巻頭句

蕗の薹水の匂を持ちて生る

森本昭代

句評 諷詠会の折、机上に庭から採って来たばかりの瑞々しい蕗の薹が
置かれていた。「水の匂を持ちて生る」の措辞そのもの。作者の眼の力に
感服。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

天と地に別れし我ら去年今年

吉田るり

中谷まもる副主宰選

さくら色のお誘ひの文春近し

下田育子

金田志津枝選

年賀状ほのぼのとして癖字かな

谷本義明

柳生清秀選

春暁の一駅ごとに明けてゆく

古山丈司

近詠

中谷まもる

傀儡

天秤に二人運びの傀儡箱

日向ぼこして江戸の庄屋の気分

山茶花の散るや越前竹人形

鷽替へて天満宮に迷ひけり

猫と庄造と二匹の赤なまこ

寒禽の雨に唄ひて平群町

傀儡の神事に届く遠太鼓

永嶋千恵子

歴史の残る町

松過の行き交ふ人の力満つ

氏子会御慶高らか申しけり

火掻棒仁王のごとくどんど守る

とんど焼村の歴史の残る町

鎮守社の絆を誇るどんどかな

とんど焚終を見守る氏子会

水神の水もてとんど納めらる

2024年3月の俳句

華凜主宰の俳句

水仙花

待春やきれいな紙を折りつぎて

越前の地酒きりりと水仙花

地震の日を見て来しやうな雪仏

寒紅や泣かぬ女でおし通す

愛伝ふ言葉難し寒の月

紅梅やおちよぼというて茶屋娘

月の夜のしら梅の青宿したる

料峭や父の名入りの輪島塗

禁色や唐くれなゐの寒牡丹

雑詠 巻頭句

牡蠣剥きの女は殻に埋れつつ

有本美砂子

句評 この句を読み下した瞬間、随分前に行った岡山の日生の牡蠣を
剥く女の姿が脳裏に浮かんだ。手際よく牡蠣を剥き殻に埋れてゆく。
その日の潮の匂までも。記憶と五感が呼び覚まされた。 華凜 

雑詠 次巻頭句

綿虫にうすむらさきの夕べ来る

久保田まり子

句評 綿虫は光の加減で白、青、紫などの色に見える。夕日の色に
薄紫に染まる小さな綿虫から「うすむらさきの夕べ」と詠み時間と
空間を広げた。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

大阪は橋より暮れて冬満月

古山丈司

中谷まもる副主宰選

寺尾逝くその日冬濤鳴りやまず

青山夏実

金田志津枝選

古備前の壺のぬくもり十二月

沖 省三

柳生清秀選

定員を超えて今宵の炬燵かな

藁科稔子

同行二人競詠五句 お題「山笑ふ」

小河フク子

種袋

ケーブルをすつと飲み込み山笑ふ

さらさらと未来明るき種袋

瀬田川の白き一艇花の雲

三月や夫の書斎に歎異抄

読み返す古き手紙や春ひと日

深澤幸子

驢馬の耳

蟻出でて早や行列を作りけり

ころころと仔山羊転げて山笑ふ

麗かや笹の葉食みて驢馬の耳

在るがまま皆尊しと花祭

アネモネに秘密ありさう黒き蕊

2024年2月の俳句

華凜主宰の俳句

縦の糸横の糸

湯豆腐やもの書くための嵯峨泊

北風や検閲済みの一封書

縦の糸横の糸あり年忘

数へ日の中に満月あり美し

海中の都も受くる初日かな

海中=わだなか

千両箱かつぐ義賊や新暦

七種の宇陀のものとし香のあをし

神さびの五十鈴川描く初扇

紅白梅描きて木地師の筆始

雑詠 巻頭句

命まだ輝くやうな落葉かな

森本昭代

句評 まだ血の通っているようなくれないの桜紅葉の落葉が数枚、
句会場の机に並んでいた。その落葉を作者は「命まだ輝くやう」と
賛美し、命を吹き込んだ。 華凜 

雑詠 次巻頭句

爽かや仕舞の風姿揺ぎなく

喜多真王

句評 九百号記念祝賀会での友枝氏の仕舞「羽衣」は静かな動きの
中に伝統の深み重みが感じられ、息を呑む程であった。またその
揺るぎない風姿はかるみをも醸し出し爽やかであった。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

花開くごと白鳥の着水す

末永美代

中谷まもる副主宰選

冬帽子被ればそこに母のゐて

後藤久子

金田志津枝選

冬紅葉老ゆることとは美しき

立花綾子

柳生清秀選

皮ジャンを脱げば気のいい漢かな

古宮喜美

近詠

髙木利夫

愛の日

生きて斯く存へて斯く葛湯吹く

足袋干してありしこの家の暮し向き

遅るるといふは世の常雁渡る

昨日より今日といふ日の柿日和

高鳴れる水の寂しき下り梁

白魚の三勺ほどが掬はれし

ゆるやかに解けて愛の日のリボン

谷川和子

ふと舞ふかに

股立を取り袴着の男振り

ねねの像ふと舞ふかにも照紅葉

紅葉山筆に尽くせぬ色にかな

作務僧の風を味方に落葉掃く

ふりかぶる散華のごとく散る落葉

料亭の案内魚板冬ぬくし

木の国の木の香清しき聖誕樹

2024年1月の俳句

華凜主宰の俳句

日華

 宇陀・室生寺三句

オリオンの盾くつきりと宇陀の冬

ひとところ女人高野の紅葉濃し

龍神の日華を放つ紅葉寺

柿食うていまだ菩薩に遠く生き

別宮はひつそりとあり冬桜

幕間に紅引き足して近松忌

顔見世やかぶりつきよりとちり席

自分史の中によきこと実南天

葱きざみ人をうらやむこともなし

雑詠 巻頭句

小鳥来て日がな慈眼に福耳に

鈴木貞雄

句評 心がほのぼのとして、幸せを感じる句。小鳥来るという
季題を慈眼福耳の措辞で明るい世界を創造した。作者の心が
穏やかなのだろう。 華凜 

雑詠 次巻頭句

水騒がず鳰沈みても浮びても

金田志津枝

句評 作者は瞬間の光を詠みとめる写生の名人である。万物には
命があり心がある。浮き沈みする鳰を見て水の心の閑けさを
捉えた作品。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

枯れてゆくものの中なる正倉院

髙木利夫

中谷まもる副主宰選

茶の花や母の唄ふを聞かぬまま

今井勝子

金田志津枝選

秋の雨無の字の滲む写経かな

佐々木きぬ子

柳生清秀選

大樽の鉋の跡や冬近し

檜尾朋子

同行二人競詠五句 お題「新年詠」

中村一雄

白寿

門前のいつもの蕎麦屋初詣

凛として白寿の僧の初諷経

松過や声のかかりし女子会に

燗もよし樽もまたよしおでん酒

露天湯の崩れぬ月や冬の宿

黒田敦子

水仙・石蕗

水仙の葉も流儀あり活けられし

水仙のそこはかと無き香をききぬ

水仙の律儀さ見せて今を咲く

花は花葉は葉としての石蕗黄

石蕗の花黄八丈なる色をもて

2023年12月の俳句

華凜主宰の俳句

ホ句に捧げむ

宇治の月水音昂る戻り橋

生涯をホ句に捧げむ月の人

明日なくも良かり月華に包まれて

戯画絵巻秋の村雨聞くばかり

抱けば寝て置けば泣く子や辛夷の実

残酷な童話の中に木の実降る

逢おうかと思ふ林檎の赤ければ

花八手いくつ面持つ観世音

通り過ぐ和傘の人や枇杷の花

雑詠 巻頭句

地虫鳴く夜は濁つてをらざりし

山田東海子

句評 静かな秋の夜、秋は一年の中で最も大気が澄み爽やかな季節。
地虫の鳴き声が聞こえる里の空には星や月も輝いているのだろう。
「夜は濁つてをらざりし」が見事。 華凜 

雑詠 次巻頭句

曼珠沙華太宰入水を忘れざる

金田志津枝

句評 作者は三鷹在住。太宰入水の上水はすぐ目と鼻の先である。
今年は例年より多くの曼珠沙華が咲いていたと聞く。いつまでも
心に景が見える句。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

名月や天空すべて月のもの

中村一雄

中谷まもる副主宰選

月に行けさうなる人と月を見る

菅 恵子

金田志津枝選

律といふ明治の人よ吾亦紅

古宮喜美

柳生清秀選

ヘルメット置きて汗拭く配達夫

唐澤米子

近詠

下田育子

清涼殿

ライオン橋渡り天満の秋思祭

良夜なる清涼殿にゐるごとく

道真の頃の明りに秋思祭

望月や鏡のやうな空となる

装束の衣冠束帯秋思祭

隠れゐしものも照して今日の月

繁昌亭跳ねて名月真向ひに

吉田るり

雁の空

すだくもの秋草に沁み人に沁み

その音色誰れも知らざる金鈴子

諷詠に褪せぬ紅あり底紅忌

天涯へ託す一と言月の風

鵺の檻じつとみてゐる曼珠沙華

一途さの闇は深くて虫の恋

青ばみて張りつめてゐる雁の空