今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

第1回諷詠大賞 花鳥賞の俳句

青山夏実

冬に入る

伊賀越の道に飛びつく草虱

虚子詠みしその掛稲の見当らず

案山子翁父に似せたるつもりなく

籾殻焼く煙の覆ふ伊賀盆地

ときに重くときには軽く藁砧

伊賀焼の肌のぬくもり衣被

干大根鈴鹿颪をたのみとす

夜霧わく町に稽古の山車囃子

町を練る九基の桜車秋祭

赤鬼も小鬼も祭酒に酔ひ

小鳥来る鍵屋の辻のしるべ石

仇討の辻と伝へて紅葉茶屋

冬に入る俳聖殿の太柱

翁生家訪ふ人はまれ枇杷の花

時雨忌の時雨に逢ふも句のえにし

悴みて田楽茶屋の火に寄りぬ

ねんねこを着て母なるや祖母なるや

底冷の伊賀の紐組む音と知る

冬耕や忍者の裔の誇りもち

天守より強霜の伊賀一望す

第1回諷詠大賞 諷詠賞の俳句

鈴木貞雄

山の辺の道の四季

畏くも忝くも初祝詞

金杯に日の注ぐごと福寿草

放飼してゐる宮の寒卵

たたなはる山紫に花の道

囀のほか音のなき道をとる

月光にふはり浮くもの春の山

薬膳の仕舞膳とて蓬餅

鉈彫の仏ゆたかに春惜む

くわくこうやおいうぐひすや朴の花

石仏の笑みそのままに夕立中

露坐仏の光景として虹かかる

山の辺の道駆け巡り一雷神

あまつさへ邪鬼踏まれゐる残暑かな

大神の虫凛凛と観月会

御饌絵馬を抜けし松茸膳に上る

山の辺の道の日和や稲架並木

露けしや一と夜かぎりの萱の御所

たけなはといふ華ぎの枯野にも

菰巻や幹には幹の臍のあり

白足袋に紫電一閃畏みぬ

2021年5月の俳句

華凜主宰の俳句

花の雨

ものの芽や一日一句詠む暮し

男の息おく桃色の風船に

ひとしきり吉野に銀の花の雨

春蘭や静御前の潜居の間

船渡御のごとく行き交ふ花見舟

寄席拍子にも花揺れて花揺れて

花疲開きしままの電子辞書

花の雨エンドロールの続きふと

四月二十三日 比奈夫誕生日

師在せば百と四つや亀の鳴く

雑詠 巻頭句

寄り添うて連理の梅となる月日

山形惇子

句評 大和には「連理の梅」と呼ばれる紅白の梅があるらしい。このお句は作者の人生そのもの。
夫婦が寄り添い歩む月日を連理の梅に託し、心打つ一句となった。華凜 

雑詠 次巻頭句

下を向く椿に落ちる覚悟かな

太田公子

句評 誠に潔よい詠みっぷりである。句会場の席題の机上の椿は下を向いていた。
その様子を作者は「落ちる覚悟」という措辞をもって賛美した。正に花鳥諷詠の心。華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

春立つや紫淡き秀句選

藁科稔子

中谷まもる副主宰選

春風や映画と坂と猫の町

下田育子

金田志津枝選

春の雲「おうい」と呼びし暮鳥の詩

山田純子

柳生清秀選

春風に弾む子の声合格す

石川かずこ

第1回諷詠大賞 諷詠大賞の俳句

有本美砂子

安芸小景

瀬戸内に海道七つ秋の潮

竹原は安芸の小灘よ新走

魚飯てふ持てなしありて島の秋

高灯籠遊女の待ちし港かも

御歯黒の遊女伝説そぞろ寒

冷まじや地図より島の消されゐて

島島に黄落といふ明りあり

野ざらしの錨の錆や冬ざるる

大根干す平地少き島暮し

冬日濃し軒先低き漁師町

着ぶくれて網を繕ふ女かな

瀬戸内の風は西風干菜揺れ

出格子の粋な模様も小六月

冬菊を活けて閑かな郭跡

鷹渡る北前船のゆきし瀬戸

冬うらら船は風待ち潮待ちと

北窓を塞ぎ本陣てふ構

瀬戸内の入日を急す冬の海

暮早し海の関所に番所跡

からからと牡蠣引揚げて浜暮るる

2021年4月の俳句

華凜主宰の俳句

椿の名

染大島小粋椿の名を問うて

暖かや水屋見舞の京和菓子

錆びず落つ椿の清し実朝忌

手遊に折鶴立てて雛立てて

豆雛にしかと桧扇笏のあり

流し雛見送る空に昼の月

大津絵の鬼の念仏春の雷

辻神の魔除か京の沈丁花

図書館に指定席あり春手套

雑詠 巻頭句

顔見世の墨染衣仁左衛門

青山夏美

雑詠 次巻頭句

凍鶴の一本足に身を托し

中谷まもる

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

逸れ羽子の色美しく風に乗る

小林一美

中谷まもる副主宰選

八十路てふまだ見ぬ道を恵方とす

森本昭代

金田志津枝選

薺粥炊かず朱塗りの椀も古り

竹下緋紗子

柳生清秀選

大試験寝ぐせの髪の撥ねしまま

石村和江

2021年3月の俳句

華凜主宰の俳句

二の替

面を打つ音の高さに寒の月

幼名は玉と言ひしか寒椿

二人分仕込み一人の雪見酒

凍鶴の天より凍てて地に凍つる

穢してはならぬ極楽橋の雪

懸想文買うて手相も見てもらふ

春浅し芸には師弟てふ縁

大鳥居抜ける近道宮の春

藤十郎偲ぶ夕霧二の替

雑詠 巻頭句

松浦屏風悲喜は描かれてをらざりし

菅恵子

雑詠 次巻頭句

信玄の隠し湯巡り紅葉狩

下田育子

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

握手して終る診察冬ぬくし

谷川和子

中谷まもる副主宰選

冬泉中村哲の一年祭

岡本和子

金田志津枝選

牡蠣をむく音の世界となりにけり

前田たか子

柳生清秀選

御母衣ダム涸れて湖底の村役場

土岐洋子

2021年2月の俳句

華凜主宰の俳句

とうとうたらり

夜神楽の天岩戸はベニヤ板

晦日蕎麦たつぷり京の黒七味

我が庵は昔海なり初明り

はつ春やとうとうたらり翁舞

心持に面を選びて能始

楽屋口「別火」と貼りて火鉢置く

一服を銀継に汲む雪の朝

海の街つもらぬ雪を見てをりぬ

笹鳴に言霊宿りをりしかな

雑詠 巻頭句

もみづるやアルプス銀座表裏

黒田冬史朗

雑詠 次巻頭句

落葉踏みゆけば木の葉の降ることよ

金田志津枝

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

いつにても天寿と思ふ日向ぼこ

古山丈司

中谷まもる副主宰選

十二月八日卒寿の冬史朗

黒田冬史朗

金田志津枝選

地中には美しき水霜柱

石田陽彦

柳生清秀選

旅余禄初冠雪の富士に会ふ

陸田弘行

2021年1月の俳句

華凜主宰の俳句

新暦

去来庵座布団二つ片時雨

冬菊にほのと慈悲の香慈悲の色

赤人のうたに始る新暦

白鳥の来てその湖の母となる

極堂も子規も若かりおでん酒

道行の遊女の足袋の白きこと

猪鍋に文豪談義里の宿

寒柝の白川郷の音一本

返り咲く木槿に小指ほどの紅

雑詠 巻頭句

秋夕焼誰も淋しいとは言はず

松井良子

雑詠 次巻頭句

破芭蕉世の一角といふところ

松井ふみを

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

静かなるアイヌの踊り月の夜

藤原滋

中谷まもる副主宰選

はからずも乗り合せたる神の旅

黒田冬史朗

金田志津枝選

生きてゐることのぬくもり根深汁

井阪陽子

柳生清秀選

掛け終へし稲架風よけに立話

小野昌子

2020年12月の俳句

華凜主宰の俳句

初心

鳥渡る天の奥より湧き出でて

残菊や名の読み取れぬ遊女塚

子規さんの好みの柿の甘さかな

浜風に篝火ゆれて神還

落葉道我が花道として一歩

楽屋出づ役者の素顔石蕗明り

祇王寺のさらなり紅葉かつ散りて

小春日や祇園にもらふ花名刺

俳諧はいつも初心よ真弓の実

挿絵B

雑詠 巻頭句

ひとすぢの朝霧が消ゆ天に向き

下橋潤子

雑詠 次巻頭句

滝音を出てこの世の音の中

久保田まり子

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

名月に向かひて祈るほかなかり

岩田雪枝

中谷まもる副主宰選

未知のことまだまだありて敬老日

川上康子

金田志津枝選

一行で終る日記を書き夜長

今井勝子

柳生清秀選

遠き日の畦の通ひ路銀蜻蜓

橋本笙子

2020年11月の俳句

華凜主宰の俳句

真如の月

火入れ式より幽玄の月上がる

しづしづと月下にシテの歩みかな

月今宵シテの衣の朱に金に

月の宴結界として能舞台

良夜かな笛に小鼓大鼓

義経の漕ぎ出でし浦月の舟

今日の月名残の橋に雲もなし

浄瑠璃の町の真如の月明り

月天心篝火果てて能果てて

雑詠 巻頭句

風の盆風を鎮める黒き帯

菅 恵子

雑詠 次巻頭句

水郷の月をくづして棹の先

梅野史矩子

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

夫掛けて逝きたるままの秋簾

加藤夕理

中谷まもる副主宰選

夏痩せて夢見る力だけ残る

森本昭代

金田志津枝選

流れ星包んで帰る夜学の子

露口美穂子

柳生清秀選

蜘蛛の囲の夕日を返す無人駅

小河フク子