今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

2026年1月の俳句

華凜主宰の俳句

初冬の街

初冬やガラスケースの中の街

木犀の風の余韻といふほどに

茶の花や塗の小皿に金平糖

襟元は柿茶の小菊着て利休

幸せに理由はいらぬ日向ぼこ

追憶は夕暮れの色返り花

蓮枯れて浮世の重さ失ひぬ

冬の虫いのちたのしめたのしめと

鳰潜る真昼の白き月の下

雑詠 巻頭句

満月を上げて茶畑碧光り

木下紀子

句評 八女の茶畑が一面に広がる上に大きな満月があり、煌煌と照らして
いるようす。「碧」とは深くあおい色。まるで絵本の一場面のような光景。
華凜 

雑詠 次巻頭句

長からぬ人生にして夜は長し

森本昭代

句評 人の人生は決して長いとは言えない。それでも秋の夜長の寂しさは、
作者には長すぎるように感じた。亡き夫を想う心が句から伝わる。 華凜

誌上句会 特選句

有本美砂子選

号外の手もとに望の月明り

奥田美恵子

岩田雪枝選

祇王寺の苔に降りたる冬紅葉

水口康子

下田育子選

移民坂くだれば月の神戸港

新谷須磨子

古山丈司選

どの色もゆづり合ふ色草紅葉

今井勝子

近詠

山形惇子

しまなみの橋

なつかしきしまなみの橋冬ぬくし

たのしかり行く先々の小六月

思ひ出を辿れば釣瓶落しかな

ドックには大型船や秋落暉

お手植の松色変へずよき姿

故郷に別るる菊に水差して

もう一度訪ふ約束や後の月

菅 恵子

利休好み

茶の花を一輪活けて足りてをり

口切や迎へる白湯の無垢なりし

口切や手前帛紗の朱で清め

香を聞いてゐる日本間の外時雨

床の間に照葉をそへて炉を開く

初時雨忍者のごとく忍び寄る

石蕗の花利休好みの色に咲く

2025年12月の俳句

華凜主宰の俳句

福音書

十六夜やしづかに開く福音書

秋水にととのつてゆく命かな

手鏡に空を映して野紺菊

愛猫の骨壺小さし草紅葉

夢書けば叶ふ夜長の萩の筆

深秋や大和に長き地獄絵図

一条に百鬼夜行の紅葉かな

鏡には映らぬ心十三夜

橋に逢ひ橋に別るる近松忌

雑詠 巻頭句

銀漢を渡る星座となりし鳥

中谷まもる

句評 美しい句から美しい夜空が広がる。天の川の中に優雅に白鳥座が
羽搏くように輝いているのを見つけ、ギリシャ神話に思いを馳せる作者。
華凜 

雑詠 次巻頭句

仮の世を生きて白露の風の音

吉田るり

句評 「白露」という二十四節気の季節感を存分に内包し、心を打つ句と
なった。「仮の世」を日々美しく生き抜く作者の自然との存問がここに。
華凜

誌上句会 特選句

古山丈司選

草虱くらい愛してくれないか

太田公子

有本美砂子選

萩刈りて消してしまひぬ風の径

吉田るり

岩田雪枝選

柿一つ見ても子規の句よぎりけり

橋本笙子

下田育子選

「どぶろく」の貼り紙とりて閉店す

下谷和子

近詠

今井勝子

十月桜

一人去り一人訪うて萩の寺

小さき門やつと越えたる秋の蝶

青空に浮かぶ十月桜かな

山の辺は三叉路多し秋の風

秋の声神将の燭ほのと揺れ

み仏の半眼の先萩の花

白豪寺拾ふ家苞椿の実

田村節子

恋の歌碑

訪ね来て藤原京は花野中

色変へぬ松の中なる恋の歌碑

格子戸の美しき町秋簾

東いせ北はよしのよ草の花

添水鳴るたびぬばたまの旅の宿

まほろばに古社寺のあまた破蓮

ここにある天岩戸や初もみぢ

2025年11月の俳句

華凜主宰の俳句

秋の海

竜胆や御前てふ名の女たち

潮待ちの港に別れ蛍草

継紙の波は銀箔秋の海

秋澄みぬこの世に母がゐるだけで

群れ咲いて読経のうねり曼珠沙華

実柘榴や未完の愛といふかたち

秋風の中の三十三間堂

鰯雲異形も二十八部衆

月今宵千手千眼観世音

雑詠 巻頭句

手花火を始める闇をつくりたる

金田志津枝

句評 手花火のための闇は、ただ明りを消して作るのではなく、少し
切なく静かな心が作るもののようにこの句からは感じられた。
今は亡き人と逢うための時間のようにも。 華凜 

雑詠 次巻頭句

一湾やイージス艦と盆の舟

中谷まもる

句評 どこの湾であろうか。海上自衛隊の巨大戦艦イージス艦と盆の
舟の取り合わせは俳句の世界でも見たことがない。大小、強弱の大胆な
対比に感服。 華凜

誌上句会 特選句

下田育子選

声変りして新米を美味いと言ふ

浅野宏子

古山丈司選

花木槿棚の二冊の幸福論

三ツ石遥人

有本美砂子選

防人の西へと急ぐ秋茜

吉田るり

岩田雪枝選

黙祷にふたたび蝉の鳴き始む

青山夏実

近詠

梅野史矩子

一献の新走

一献の白磁に透けて新走

指先で遊ぶ他なき秋扇

鶏頭の朱と一つになる夕日

星屑の相寄るところ天の川

葉がくれに来て色鳥の華となる

秋声や物の気配にふり返る

柳川は水の匂と麦の秋

青山夏実

月の供華

露の絵馬願ひ叶ふも叶はぬも

母の忌や前も後ろも赤とんぼ

ひたひたと船溜まで鯊の潮

突堤に竿竿竿や鯊日和

艫綱の飛びくる月の小桟橋

信楽にどかと挿されて月の供華

手につつむ武蔵野茶碗秋の声

2025年10月の俳句

華凜主宰の俳句

まなむすめ

蓮開くウブドの朝の光抱き

火を渡るケチャの漢や夜の秋

稲光獣のごとく海走る

海の神祀る寺院を星月夜

国生みの空乗せふゆる蜻蛉かな

かくり世へ続く道あり法師蝉

はじまりの言の葉美し底紅忌

底紅やまなむすめにもまなむすめ

朝顔にかんばせ寄する塩瀬帯

雑詠 巻頭句

奥駈けといふ下闇の続く道

今城 仂

句評 吉野から熊野への霊験あらたかな下闇の続く修験道が見える。
「奥駈け」といふ厳しい山岳修行を成した作者の清らかな魂の句。 華凜 

雑詠 次巻頭句

睡蓮の水より覚めて宙に咲く

岩田雪枝

句評 睡蓮の咲くようすを、的確にまた観念的に写生された。睡蓮の咲く
池のほとりに立つ作者の心は今此の世と浄土の境に遊んでいるよう。 華凜

誌上句会 特選句

岩田雪枝選

鵜飼果て川と夜風の匂ひして

福本せつこ

下田育子選

何にでもなれる少年雲の峰

古山丈司

古山丈司選

追ひ越して行く人ばかり花むくげ

荒木清枝

有本美砂子選

山上の夏炉に解れゆく五体

久保田まり子

近詠

岩田雪枝

萩の風

萩の風浴び鎌倉の地を踏みぬ

石仏の供華や薄に花木槿

秋灯皇女の庵主像祀り

昼の虫駆込寺に縷縷と鳴く

秋草のあるがままなる御堂かな

結界の奥やゆかしき萩の径

底紅忌近き底紅仰ぎ見る

菅原くに子

秋の川

秋時雨柳散り込む高瀬川

鴨川はデートコースよ宵の月

哲学の道の疎水も澄みにけり

水澄んでひがな友禅流しかな

大川の川面ゆらぎぬ月見草

初月夜砂漠の砂のさらさらと

露深し友人もまた寡婦となり

2025年9月の俳句

華凜主宰の俳句

江戸切子

夜の風が月へとくぐる茅の輪かな

コンテナ船ぐらりと回す夏の月

夜涼みの中を汽笛の通り過ぐ

滴りて不動明王眠らざる

恨しの涙は赤し夏芝居

結界として白檀の扇子置く

むらさきに暮れる大川船祭

梅鉢門揃ひて進む櫂涼し

母がよく話す夜なり江戸切子

雑詠 巻頭句

竹伐会鞍馬は風の棲める山

久保田まり子

句評 「鞍馬は風の棲める山」の措辞だけで「竹伐会」の青竹をたたき伐る
音やあおあおとした香、霊山の宇宙とつながる気まで世界を広げる。
俳句とはこうありたい。 華凜 

雑詠 次巻頭句

天道虫一星割つて離陸する

奥村芳弘

句評 この天道虫は七つの星のあるナナホシテントウだろう。背中の真ん中の
星が割れて、羽根を開いて飛び立つさまをしっかりと写生。表現の美しさも
魅力的。 華凜

誌上句会 特選句

有本美砂子選

滝壺を抜けて正気の水となる

奥村芳弘

岩田雪枝選

手に止まる蛍命の匂ひして

猪谷美代子

下田育子選

蜘蛛の囲の工法あつて図面なし

奥村芳弘

古山丈司選

いにしへの香なり青田の御食国

井阪陽子

近詠

岡田隆太郎

仲哀帝の仮寓跡

和菓子屋は尼子の裔や柏餅

萍の砦の堀に生ひ初むる

タンカーのゆつくり廻る青葉潮

葉桜や仲哀帝の仮寓跡

魚市の隅にて販ぐ夏野菜

昼網の放送浦の漁協より

夢の世に遊んで戻る昼寝覚

木下紀子

沙羅の花

和やかに庭のふくらみ若楓

大藤や紫の香の風に乗り

蒼天にむらさき放ち藤の花

若葉雨原爆ドーム黙深し

一輪のこころを洗ふ沙羅の花

あぢさゐの紫紺に一日はじまりぬ

夏蝶の庭のみどりに溶けゆけり