近詠

髙木利夫

愛の日

生きて斯く存へて斯く葛湯吹く

足袋干してありしこの家の暮し向き

遅るるといふは世の常雁渡る

昨日より今日といふ日の柿日和

高鳴れる水の寂しき下り梁

白魚の三勺ほどが掬はれし

ゆるやかに解けて愛の日のリボン

谷川和子

ふと舞ふかに

股立を取り袴着の男振り

ねねの像ふと舞ふかにも照紅葉

紅葉山筆に尽くせぬ色にかな

作務僧の風を味方に落葉掃く

ふりかぶる散華のごとく散る落葉

料亭の案内魚板冬ぬくし

木の国の木の香清しき聖誕樹