近詠

鈴木貞雄

千金の刻

吉兆の松明占やお水取

なつかしき被布も飾りて雛祭

荒東風や海は兎の跳べる波

千金の刻をとどめて花吹雪

糸桜揺れて天女の裔かもと

ふところに学徒慰霊碑老桜

風光るときまつさきに人光る

久保田まり子

風の襞

冬ごもりゐても一日にある遅速

君よりも若き真冬の父母の夢

たまはりし余生に咲ける水仙花

松過ぎの川を越え来る田の煙

水底に別の夕暮れ冬近し

吹かれ来し薄氷にある風の襞

立春の音なき雨に濡れもして