近詠

山形陽彦

送り火

炎天や一直線に続く道

次次に川に飛び込む裸ん坊

日にかざす透し模様や奈良扇

火の列のうねりて進む虫送り

送り火や妣は方向音痴なりし

京洛のネオンは消えて大文字

精霊と供に消えゆく大文字

福島津根子

労ひの言葉

小暗さの安らぐ広さ夏座敷

誰もゐぬ仏間に焚かれ蚊遣香

勤勉な汗には労ひの言葉

聞えないふりも上手に心太

雫まで見するものとし軒忍

大夕焼吸ひ込まるごと行く列車

顧みて悔のなかりし走馬灯