近詠

西井千づ

秋はじめ

金魚にも魚の匂や秋はじめ

八月や母の形見に父のもの

青葡萄日月軽く過ぎゆけり

あさがほの紺のつぶやく一語かな

かなかなのこゑに濡れゐる奥信濃

よく乾きゐる洗ひもの終戦日

桔梗の咲く堂守のしづけさに

福島津根子

午前五時九分

滝道の史実を辿るやう歩む

滝音の毀れて散つてしまふかに

蓮を刈る舟の三艘ばかり出で

片蔭の濡れてゐるかと思ひけり

午前五時九分蝉の鳴き始む

草の市買うてせつなくなつてをり

言の葉の伝ふすべなく鰯雲