近詠

下田育子

清涼殿

ライオン橋渡り天満の秋思祭

良夜なる清涼殿にゐるごとく

道真の頃の明りに秋思祭

望月や鏡のやうな空となる

装束の衣冠束帯秋思祭

隠れゐしものも照して今日の月

繁昌亭跳ねて名月真向ひに

吉田るり

雁の空

すだくもの秋草に沁み人に沁み

その音色誰れも知らざる金鈴子

諷詠に褪せぬ紅あり底紅忌

天涯へ託す一と言月の風

鵺の檻じつとみてゐる曼珠沙華

一途さの闇は深くて虫の恋

青ばみて張りつめてゐる雁の空