近詠

有本美砂子

引く潮も満ちくる潮も春の海

春潮に屋島の影の浮き沈み

春風をまとふ海辺のテラス席

島影のいくつ重なり春時雨

ボサノバの耳にかすかな春の闇

春の宵揺蕩ふものに舫ひ舟

竜の眼のやうな水底月朧

太田公子

花遍路

花遍路河津桜に山桜

先達の真つ赤な遍路納経帳

はち切れんばかりのリュック徒遍路

GPS待つ少年の徒遍路

遍路宿給仕の語尾の国ことば

無縁塔あり満開の花の下

本堂の前にふらここある不思議