有本美砂子
安芸小景
瀬戸内に海道七つ秋の潮
竹原は安芸の小灘よ新走
魚飯てふ持てなしありて島の秋
高灯籠遊女の待ちし港かも
御歯黒の遊女伝説そぞろ寒
冷まじや地図より島の消されゐて
島島に黄落といふ明りあり
野ざらしの錨の錆や冬ざるる
大根干す平地少き島暮し
冬日濃し軒先低き漁師町
着ぶくれて網を繕ふ女かな
瀬戸内の風は西風干菜揺れ
出格子の粋な模様も小六月
冬菊を活けて閑かな郭跡
鷹渡る北前船のゆきし瀬戸
冬うらら船は風待ち潮待ちと
北窓を塞ぎ本陣てふ構
瀬戸内の入日を急す冬の海
暮早し海の関所に番所跡
からからと牡蠣引揚げて浜暮るる