近詠

髙木利夫

埋火

牧閉ざす日なりし風は風色に

秋刀魚焼く夕べとなりぬ帰らうか

暖炉の火語部めきて燃ゆるかな

妻が踏み吾が踏む音の落葉道

信心といふは埋火にも似たる

襟巻の人呼返すすべもなし

晩年や仕合せほどの葱植ゑて

有本美砂子

善の綱

御仏の御手に十夜の善の綱

十夜なれ人出も音も途切れなく

天冠の重しと稚児の泣く十夜

経最中稚児のくさめの小さき音

十夜婆また眠くなる講最中

露座仏の錆も冬めくものとして

講果てて夜廻りの声遠くあり