小林一鳥
癌畜生
春深し胸に違和感覚えし日
乳癌をエコー涼しく見付けたる
若葉寒俳句用具も入院す
看護婦の言葉は薬風薫る
梅雨深し癌病棟を車椅子
梅雨深し麻酔は夢を見せず覚め
妻も子も面会謝絶梅雨に処す
病室を一歩も出でず梅雨籠
病舎から見る梅雨深きガードマン
明易の医大の露地へ救急車
傷跡に幾度も打てり天瓜粉
癌畜生癌畜生と裸見る
冷奴病院食は味薄し
銭湯に入れずプールにも行けず
夏の果まだこの傷にこの痛み
禁酒より禁煙辛し夏の果
暑に耐へてをり禁煙に耐へてをり
手術痩なかり夏痩なかりけり
手術より手術の傷の冷まじく
末枯の命なれども慈しむ