近詠

柳生清秀

春つ方

気の付かぬほどとは小粋春の雨

東風吹きて潮路よろしき戻り船

大阪も池田の奥の寝釈迦かな

春愁や言葉濁すと言ふことも

羊の毛刈る六甲の山日和

金縷梅の長き四弁を倖と見し

散際の桜の仄と薄化粧

有本玲子

伊根の舟屋

ひたひたと伊根の舟屋に春の波

春の潮舟屋は軒を突合せ

うららかや伊根の小島に鯨墓

舟屋口覗き遊船島めぐり

一湾に鰤の養殖遅日かな

浜うらら歌ふやうにも鳶の笛

灯台の赤の歪みて陽炎へる