2022年8月の俳句

華凜主宰の俳句

別れの時間

その人を思へば沙羅の散ることよ

著莪の花父ほんたうはさみしがり

紫陽花の藍におのづと静心

たまゆらの夜風入り来し網戸より

清流に見立て鮎描く扇かな

文字摺草ひとふみ箋の減り早し

紙魚の書の金言古ぶことなかり

夕といふ別れの時間花木槿

底紅の紅に触れたき小さき罪

雑詠 巻頭句

植女ゐて下植ゐて御田祭

髙木利夫

句評 夜半の〈郭女の植女なりせば眉目透く笠〉を思い出した。昔、
住吉の御田植祭の「植女」は新町の芸妓がつとめていたそう。「植女」
「下植女」「御田祭」と季語を並べ、作者特有の艶のある句となった。
季題は「御田祭」。 華凜 

雑詠 次巻頭句

時計屋のいろんな時間春惜む

菅原くに子

句評 「春惜む」の季題が句によく現れている。昭和レトロな時計屋を
思う。「いろんな時間」が心に響く。いろいろな時計、少し時間のズレて
いるものも。時の流れを惜しむかのよう。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

父の日や父の知らざる世を歩む

森本昭代

中谷まもる副主宰選

更衣金曜に来るバスを待つ

松岡照子

金田志津枝選

旅に出て父とつなぐ手子供の日

太田倫子

柳生清秀選

車椅子の母の手庇桐の花

赤川京子