青山夏実
冬に入る
伊賀越の道に飛びつく草虱
虚子詠みしその掛稲の見当らず
案山子翁父に似せたるつもりなく
籾殻焼く煙の覆ふ伊賀盆地
ときに重くときには軽く藁砧
伊賀焼の肌のぬくもり衣被
干大根鈴鹿颪をたのみとす
夜霧わく町に稽古の山車囃子
町を練る九基の桜車秋祭
赤鬼も小鬼も祭酒に酔ひ
小鳥来る鍵屋の辻のしるべ石
仇討の辻と伝へて紅葉茶屋
冬に入る俳聖殿の太柱
翁生家訪ふ人はまれ枇杷の花
時雨忌の時雨に逢ふも句のえにし
悴みて田楽茶屋の火に寄りぬ
ねんねこを着て母なるや祖母なるや
底冷の伊賀の紐組む音と知る
冬耕や忍者の裔の誇りもち
天守より強霜の伊賀一望す