今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

2025年4月の俳句

華凜主宰の俳句

ざはざはと

楊貴妃といふ紅梅の濡れもして

美しき眉根寄す妓よ春寒し

紅梅や隈取の紅尽したる

歌麿のをんな春呼ぶおちよぼ口

春障子きつねこんこん指の影

いぬふぐり言葉足らずの児のいとし

うらわかき風と遊びて下萌ゆる

椿落つ明日満つ月を待たずして

月満つるらし桜の芽ざはざはと

雑詠 巻頭句

初雪や胡粉を被たり高野杉

鈴木貞雄

句評 日本画の世界に入り込んだような句。奥の院へ続く高野山の
道を行く作者。高野杉に降り、朝の日をあびる初雪の輝きは貝殻を
くだいた画材「胡粉」のよう。凜とした空気感まで伝わってくる。 華凜 

雑詠 次巻頭句

美しき牡鹿が道に恵方かな

久保田まり子

句評 神の使いと言われる鹿。古都奈良の鹿は神鹿とも呼ばれる。
「美しき牡鹿」の濡れるような黒黒とした瞳は「こちらが恵方で
ある。」と指し示しているように思えた。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

夢よりも淡き色して母子草

水口康子

中谷まもる副主宰選

天下布武山河静かに初景色

加藤夕理

金田志津枝選

とんど焚く神輿庫には鍵かけて

山田東海子

柳生清秀選

忘るるもまた良きことや日向ぼこ

小河フク子

近詠

鈴木貞雄

千金の刻

吉兆の松明占やお水取

なつかしき被布も飾りて雛祭

荒東風や海は兎の跳べる波

千金の刻をとどめて花吹雪

糸桜揺れて天女の裔かもと

ふところに学徒慰霊碑老桜

風光るときまつさきに人光る

久保田まり子

風の襞

冬ごもりゐても一日にある遅速

君よりも若き真冬の父母の夢

たまはりし余生に咲ける水仙花

松過ぎの川を越え来る田の煙

水底に別の夕暮れ冬近し

吹かれ来し薄氷にある風の襞

立春の音なき雨に濡れもして

2025年3月の俳句

華凜主宰の俳句

髪の冷

白き月その身に宿し寒牡丹

侘助や姉と慕ひし人のこと

上方の役者ぶりよき寒鴉

冬菊に小雪てふ名を付けたかり

雪の夜の吾の言の葉の雪となる

天心の月に道あり瀧凍つる

寒星の一つおとうとかと思ふ

久女の忌戻り来し夜の髪の冷

そと置かれ文のごとくに梅一枝

雑詠 巻頭句

時雨るるや人はほろりと消えてゆく

森本昭代

句評 目の前にいた人が消える。時の雨と書く時雨のように、天へと
帰っていったのだろう。夫恋の句である。誰もがこの世に生き、ほろりと
消えていくという定めを感じた。 華凜 

雑詠 次巻頭句

冬の月無音で帰る消防車

安野妙香

句評 大気が澄んで空の藍が深まっているせいか、冬の月の輝きは
畏怖を感じる。消防車とあるので火事の後であろう。死者も出たの
かもしれない。言葉にはないが、静かな哀しみが句から感じられる
のは筆者だけであろうか。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

裸木となりて又兵衛桜かな

中谷まもる

中谷まもる副主宰選

眼も脚も達者なうちに鶴に会へ

前田昌子

金田志津枝選

初旅の地図になき川渡りけり

水口康子

柳生清秀選

炭継いでまた静寂といふ時間

有本美砂子

同行二人競詠五句 お題「卒業」

石橋直子

青き辞

ハットトス弾ける声や卒業す

ものの芽の真直に向ふ空青し

確と受く青き辞や卒業す

未知なりしZ世代の卒業す

アルバムに残りし笑顔卒業子

中松育子

卒業式

教室の日捲り卒業は間近

教員バンド卒業生を祝福す

制服の丈の短し卒業生

卒業式呼名にこたふ涙声

教へ子を見送る袴梅香る

2025年2月の俳句

華凜主宰の俳句

君眠る

読初の古事記大蛇のところより

大枯野かつて天動説の空

鰭酒の夜を灯して港町

山茶花や恋とも言へぬ恋をして

 令和六年十二月二十日、弟高広五十四歳にて逝く。

君眠る六甲の山眠るとき

こんなにも美しき冬日に迎へられ

時雨虹母より先に泣くまいぞ

さみしさに己が肩抱く冬至風呂

やうやくに涙あふれて年の逝く

雑詠 巻頭句

影ありて大綿に白現れる

石田陽彦

句評 ゲーテの言葉「光あるところに影あり」は真理だと思う。
この句にはその逆の真理を感じた。大綿の白は光。しっかりとした
写生の目が、この世を照らす小さな光を捉えた。 華凜 

雑詠 次巻頭句

帰り咲く左近の桜神さびて

森本昭代

句評 春に咲く桜が、冬のあたたかな日差しに帰り咲いている様子は
神の御業のよう。御所内裏の庭の「左近の桜」なら殊更、神々しく輝く。
下五の「神さびて」が見事。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

冬ぬくし姫街道に目安箱

柴田のり子

中谷まもる副主宰選

嚔して俊太郎の詩諳んじる

石川かずこ

金田志津枝選

大根抜き畑の底を覗き見る

下田育子

柳生清秀選

YESかNOか神農の虎の首

奥田美恵子

近詠

石井のぼる

露天神

時雨るるや笙篳篥の流る宮

この地にてお初徳兵衛寒桜

仰山の恋絵馬集ひ近松忌

山茶花や崩れやすきは恋の常

凩の吹いて恋絵馬立つ気配

露天神抜けて大路の黄落期

黄落や梅田曽根崎新御堂

岡本和子

逆光の島

波音の果つることなし秋夕焼

黒ぐろと逆光の島新松子

産土の校歌の山を月渡る

城壁を映す濠の辺野紺菊

木材を流せし河口鴨の群

峰寺の朝の茶の花清清し

大らかな慈悲といふ軸冬座敷

2025年1月の俳句

華凜主宰の俳句

画集の中の女たち

 東郷青児展

冬麗や画集の中の女たち

冬の朝水を重ねし空の色

朝靄や喫茶ソワレの青き玻璃

冬日さし紅葉浄土や真くれなゐ

顔見世や花簪に役者の名

座に遊びいただく蜜柑芸妓剥き

道行の赤きショールに紙の雪

湯豆腐や死ぬの生きるの言ひし仲

かいつぶり月を揺して潜りけり

雑詠 巻頭句

敦盛の能果て城は虫の闇

足達晃子

句評 平家物語の仲でも「敦盛」は最も哀しく美しい。作者は明石城の
野外能を観たとのこと。能が果て篝火が消えると辺りは「虫の闇」に
包まれる。能の余韻が虫の声と共に広がる。 華凜 

雑詠 次巻頭句

御所に吹く風ごと剪られ花芒

小林一美

句評 ある日の「諷詠会」でのこと。属目席題として奈良の御所から
山形ご夫妻が花芒を持って来てくれた。高々と生けられた花芒は風に
靡いているよう。その瞬間を見事に写生された。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

唇に指立て小鳥ゐる合図

谷川和子

中谷まもる副主宰選

高野へと千の落葉の色を踏む

林 右華

金田志津枝選

秋風を友とし巡る戯画絵巻

菅原くに子

柳生清秀選

朝寒や振り子時計の螺子を巻く

中村雅子

同行二人競詠五句 お題「新年詠」

土岐洋子

年新た

年新た干支の置き物いき返り

とんど焼く仕来り守る男衆

農機具は父の手づくり注連飾る

仏膳に御神酒そなへるお元日

常日頃の暮しに戻す松七日

中村雅子

初明り

正月や船名太き大漁旗

海光る筏の下の牡蠣重き

早起きの厨の窓に初明り

ごまめあてに積る話の父と子や

泣初の子に父の膝母の膝

2024年12月の俳句

華凜主宰の俳句

声の記憶

栗剥いて妻をさみしと思ふ夜も

十三夜声の記憶の辻にあり

枇杷咲くや遊女屋にある天女池

見返るは惜しむことなり一葉忌

早世の人に捧げむ冬薔薇

萩の風明治の俳徒みな若し

柿吊す神を迎へし道の辺に

根の国の音近づけて瓢の笛

白足袋の見ゆる八岐大蛇かな

雑詠 巻頭句

思ふとは別れたること思ひ草

金田志津枝

句評 「思ひ草」に心が重なった物心一如の句。人は出会い、いつか
別れが訪れる。思い草の名に姿にこの世の定めを見た作者。
深い句である。 華凜 

雑詠 次巻頭句

居待月天の岩戸のやうに雲

吉田るり

句評 『古事記』の天の岩戸伝説を句に用いたことで月の出を待つ空、
そこに懸かる厚い雲が突然神話のように感じられる。アマテラスは
太陽神。月の句としては類を見ない面白い比喩。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

月の供華十八畳を開け放ち

山形惇子

中谷まもる副主宰選

炎天を走るお帰り言ひたくて

浅野宏子

金田志津枝選

透明な水を吸ひ上げ曼珠沙華

𠮷田知子

柳生清秀選

染み黒きつなぎのままの夜学生

大見 康

近詠

下田育子

サロマ湖

オホーツクに向ひ馬鈴薯掘り進む

地平線まで唐黍の続きをり

薪を積み網走はもう冬仕度

秋晴や満員なりし摩周号

珊瑚草能取の秋の真つ盛り

サロマ湖の澄む天空の鏡かに

名月や北の果てにて旅終へる

冨田忠夫

名月

名月とまづ記したる日記かな

周防灘凪ぎて名月昇り来る

二の宮に宝刀飾る良夜かな

名月や近江女の面に紅

四王司山の山影浮かぶ望の月

ロードショー余韻残して居待月

長編の終章間近寝待月