今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

2024年11月の俳句

華凜主宰の俳句

如意輪観世音菩薩

口元の西施がごとく秋扇

秋草のいづれ雨夜の品定め

月光に如意輪観世音菩薩

月今宵人は余命の中に生き

港より離れいつしか月の船

水の秋夕日の濃かり船着場

風の芒月の芒となりにけり

一首添へ送る文など秋扇

藤袴風やはらかく女坂

雑詠 巻頭句

照らすより灯る明るさ盆の月

林 右華

句評 月光はこの世をあまねく「照らす」もの、というイメージで
あったが、この句によって盆の月に作者の心が重なり、灯る明るさに
祖霊の御魂が宿っていることが感じられた。見事である。 華凜 

雑詠 次巻頭句

ふる里に清き水あり祭笛

古山丈司

句評 作者は福岡のご出身。美しい川の流れと田畑の景色が祭笛の音と
共に見え、聞こえてくる。最も大切な変わることのない思い出が今も
読み手の心を捉える。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

大輪の芙蓉夕日をたたみけり

足達晃子

中谷まもる副主宰選

香水を纏ひ母にも敵あるか

石村和江

金田志津枝選

ため息のやうに落ちけり桐一葉

石田陽彦

柳生清秀選

新札に人見知りして生身魂

石村和江

同行二人競詠五句 お題「茶の花」

信貴 宏

葉隠れ

茶の花や堺にうまき菓子ありて

茶の花の白きを誇る南宗寺

茶の花や介護に戻る母の家

丹波路の土産は嬉し茶の花よ

葉隠れに茶の花ひそと君が家

丸田淳子

丹波焼

躙戸をガタゴト開けて入る小春

茶の花に床窓よりの日の白し

茶の花は一輪で良し丹波焼

初冬の一服の刻流れゆく

茶の花の話は尽きず二服めを

2024年10月の俳句

華凜主宰の俳句

祇園めく

稲光散骨の海彼方なり

吾亦紅石積むだけの鳥の墓

秋簾そろりと訪ね来るひとも

上京の月にさぶしき桔梗かな

祇園めく新橋色の秋扇

女郎花二階の奥の隠し部屋

晴の日は雨の紫菀に情寄する

菩提子の舞うて三界六道に

虫入りてより虫籠の濡れてきし

雑詠 巻頭句

月鉾の月を迎へる高さまで

菅 恵子

句評 祇園祭の鉾の中でも最も心惹かれる「月鉾」。その高さは二十六
メートルと山鉾の中で一番高い。鉾先の三日月が美しく輝く。「月を
迎へる高さ」の措辞が素晴らしい。 華凜 

雑詠 次巻頭句

廓跡巡りし夜の髪洗ふ

金田志津枝

句評 吉原の廓跡を吟行し、作者の心にはさまざまな思いが生れたので
あろう。女が髪を洗うとき、思いも共に洗い流す。哀しみであれば尚。
華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

星燃えて鬼百合ばかり咲く野かな

吉田知子

中谷まもる副主宰選

追山笠の雨の中なる浄め水

梅野史矩子

金田志津枝選

父と世を隔てし夜の蚊遣香

古山丈司

柳生清秀選

夏の朝パン屋の隅のイートイン

中松育子

近詠

山形惇子

おんぱらさん

桜井におんぱらさんといふ祭

のしかかる笙篳篥に蝉の声

浦安の舞の鈴の音夏越祭

菅貫や飾神馬を先立てて

色香よき楕円の茅の輪ありがたう

三輪音頭揃ひ浴衣の有志連

祓戸は三輪の馬場先夏越祭

石田陽彦

夏の色

形代の白さに心澄み来り

理由なき反抗と言ふ夏のあり

太陽に対峙せし赤百日紅

茶のスーツ脱ぎ透明な羽の蝉

紫の雲の棚引く夕焼かな

サングラス掛けて景色の静りぬ

一晩を蚊取線香燃え尽す

2024年9月の俳句

華凜主宰の俳句

百日紅

その中に生も死もあり百日紅

人偲ぶ風の来てをり風蘭に

桃すする女見てゐる男かな

妻ありて花魁草に触れもして

合歓の花風を孕みて眠るころ

 七月十八日姫孫誕生

夏の月指美しき娘に生まれ

甚平着て一才にして兄となる

ひぐらしやまだかろき子を抱き上げて

街の灯は一つづつ消え盆の月

雑詠 巻頭句

蛍忌の蛍の描く黄の世界

中谷まもる

句評 先師立夫への存問の句。六月二十六日の蛍忌に絵を描くこと、
黄の好きだった立夫を偲ぶ作者。蛍の光は黄泉の世界へと誘うよう。
華凜 

雑詠 次巻頭句

晴れてゐる水の世界の水中花

下橋潤子

句評 俳句は物を見た時の作者の心が言葉を選び、一句となる。「晴れて
ゐる水の世界」の措辞に明るい作者の心と水中花の世界を見た。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

男こそ泣けることあり雲の峰

古山丈司

中谷まもる副主宰選

仏壇の父と目の合ふ冷奴

古山丈司

金田志津枝選

ふるさとの賢治の銀河浴び涼し

川上康子

柳生清秀選

時の日や駄菓子屋に鳴る鳩時計

下田育子

同行二人競詠五句 お題「コスモス」

宮川建子

押花

揺れるたびコスモスの色増えてゆく

コスモスの風を掴むといふ仕草

さりげなく風はコスモス撫でてゆく

コスモス畑の色を纏ひて人やさし

コスモスの揺れゐる姿押花に

花谷 文

風を追ふ

コスモスや昔馴染みの理髪店

料理書に母のメモ書き秋桜

コスモスに囲まれてをり無人駅

其々に風を追ひたる秋桜

コスモスの揺れて旅先案内人

2024年8月の俳句

華凜主宰の俳句

たいくつさうな指

香水はミツコ人には物語

夏帯の花鳥六区に仲見世に

厨よりきれいな声す夏暖簾

風鈴を揺らしたいくつさうな指

紫陽花の藍を尽して奥吉野

畳むには惜しき花ある扇子かな

閉館の絵画展より夕日傘

銅像の目の黙深し五月闇

航路いま赤道直下夏の月

雑詠 巻頭句

新緑の夜を戻りて身の湿り

今井勝子

句評 下五の「身の湿り」が見事。読み下した瞬間に筆者の身に
湿度が伝わった。新緑の命のざわめく夜を作者自身に宿している。
艶の句。 華凜 

雑詠 次巻頭句

敦盛の修羅を舞ふべく更衣

青山夏実

句評 能楽師の「更衣」を詠んだ句であろう。武人がシテになる能を
修羅物と言い、修羅道に落ち苦しむ様が描かれる。「平家物語」に
多くある。「敦盛」は殊によい。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

万緑を逆さに湖の深さかな

森本昭代

中谷まもる副主宰選

父の忌の太田胃散の上の蟻

古山丈司

金田志津枝選

古墳秘め風土記の丘の緑美し

太田倫子

柳生清秀選

流行を少し取り入れ更衣

多田久子

近詠

菅原くに子

般若之芝

結界の立つ時刻あり薪能

青芝の舞台般若之芝といふ

奥行きを眺む正面薪能

篝火に闇の蠢く薪能

笛の音の導く山場薪能

後ジテに霊気宿りぬ薪能

中天に残る半月薪能

柴尾きぬえ

母なる大河

花吹雪浴びる城址の武者返し

ロマンある宇宙をめざせ揚雲雀

薔薇園の百の香に酔ひしれる

天に月地に輝くは月見草

風薫る母なる大河筑後川

神々し夏草を食む牧の馬

闇染める屋形船の灯鵜飼の火

2024年7月の俳句

華凜主宰の俳句

月の牡丹

一振に月ふくらめる薪能

夏の月欠けてゆく日の戻り船

杣人の里のいろどり朴葉鮓

傾国の月の牡丹と思ひけり

一朶二朶樗の花に風遊び

夕刻は来し方ゆかし枇杷すする

夜の色せし風鈴に月の音

通ひ路を違へ梔子香る路

比奈夫忌や今の世眺む夏椿

雑詠 巻頭句

夕ざくらうすむらさきと気付くまで

梅野史矩子

句評 〈夕ざくら夕とは空の色のこと 立夫〉が思い出された。
むらさき色の空の色を写した夕ざくらを情感たっぷりに詠まれた。
「気付くまで」に時間と心の推移が見られる。 華凜 

雑詠 次巻頭句

花の頃花の吉原跡を訪ふ

岩田雪枝

句評 満開の花に飛花落花の中、今は何もない吉原遊廓跡を吟行で
訪れた作者。「花の吉原跡」と詠み当時の栄華を花と重ね合わせた。
見事。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

能面の眉に影あり春ともし

中谷まもる

中谷まもる副主宰選

縄屋てふ屋号残れり初燕

石村和江

金田志津枝選

四万十の下田の渡し徒遍路

小林一美

柳生清秀選

花の雨南部の塔はけぶりけり

信貴 宏

同行二人競詠五句 お題「風鈴」

渊上葉子

風鈴と祭

けふひとり風鈴つるし風待ちて

風鈴に心あそばすこともあり

宮入りの天神祭佳境なり

袖通す祖母の仕立ての藍ゆかた

羅の風と光を重ね着る

筑木佳香

その時の私

風鈴や母の余命を知らされて

葉桜や父の匂の薄れゆく

牛蛙ニャーと鳴きたき夜のあり

梅雨夕焼亥年蟹座の生れです

悠久に一瞬のわれ天の川