石井のぼる
どんどこ舟
どんどこ舟大阪締で締めながら
どんどこ舟木場の漢の競ひ声
横顔のきりりどんどこ舟の長
祭顔どんどこ舟を任されて
見物の人とも手締どんどこ舟

佐伯つよし
浪速つ子
天神の闇夜を残す大花火
百態の笑ひ顔あり船渡御
この月に天神祭映りしか
神輿乗る天神さんも祭好き
燃え尽きて天神祭浪速つ子

どんどこ舟大阪締で締めながら
どんどこ舟木場の漢の競ひ声
横顔のきりりどんどこ舟の長
祭顔どんどこ舟を任されて
見物の人とも手締どんどこ舟

天神の闇夜を残す大花火
百態の笑ひ顔あり船渡御
この月に天神祭映りしか
神輿乗る天神さんも祭好き
燃え尽きて天神祭浪速つ子
駄菓子屋の入口狭し風車
漱石の猫は三毛猫春の月
のどけしやバス待つ時間香立てて
囀の昼なほ暗き高野杉
みろく石片手に重し春かなし
花下抜けて愛染堂に休みけり
さくらにも余生と言へる時のあり
合の手は姉さの役目茶摘唄
島人の婚の約束花海桐

涅槃図を巻けば衆生の泣き止みぬ
小林一鳥
句評 生きとし生けるもの一切の生物=衆生が嘆き哀しむ様を描く涅槃図を見て
いると泣き声まで聞こえてくる。巻き上げると同時にぴたりと泣き声が止む。
心の声までも写生。作者の俳諧魂に感服。華凜
百態に曲りいかなご煮上りぬ
今井勝子
句評 兵庫県の春の名産品と言えばいかなごの釘煮。「百態」の措辞がその姿を
見事に表現している。あちらを向きこちらを向き全て違う曲り様に煮上がる。華凜
窯元の子にぶらんこの庭のあり
髙木利夫
急ぎゐる花や心の追ひつかず
川合千鶴
涅槃西風親の期待にそへぬまま
佐々木きぬ子
雪洞を吊り墨堤の花を待つ
岡田隆太郎
伊賀越の道に飛びつく草虱
虚子詠みしその掛稲の見当らず
案山子翁父に似せたるつもりなく
籾殻焼く煙の覆ふ伊賀盆地
ときに重くときには軽く藁砧
伊賀焼の肌のぬくもり衣被
干大根鈴鹿颪をたのみとす
夜霧わく町に稽古の山車囃子
町を練る九基の桜車秋祭
赤鬼も小鬼も祭酒に酔ひ
小鳥来る鍵屋の辻のしるべ石
仇討の辻と伝へて紅葉茶屋
冬に入る俳聖殿の太柱
翁生家訪ふ人はまれ枇杷の花
時雨忌の時雨に逢ふも句のえにし
悴みて田楽茶屋の火に寄りぬ
ねんねこを着て母なるや祖母なるや
底冷の伊賀の紐組む音と知る
冬耕や忍者の裔の誇りもち
天守より強霜の伊賀一望す

畏くも忝くも初祝詞
金杯に日の注ぐごと福寿草
放飼してゐる宮の寒卵
たたなはる山紫に花の道
囀のほか音のなき道をとる
月光にふはり浮くもの春の山
薬膳の仕舞膳とて蓬餅
鉈彫の仏ゆたかに春惜む
くわくこうやおいうぐひすや朴の花
石仏の笑みそのままに夕立中
露坐仏の光景として虹かかる
山の辺の道駆け巡り一雷神
あまつさへ邪鬼踏まれゐる残暑かな
大神の虫凛凛と観月会
御饌絵馬を抜けし松茸膳に上る
山の辺の道の日和や稲架並木
露けしや一と夜かぎりの萱の御所
たけなはといふ華ぎの枯野にも
菰巻や幹には幹の臍のあり
白足袋に紫電一閃畏みぬ

ものの芽や一日一句詠む暮し
男の息おく桃色の風船に
ひとしきり吉野に銀の花の雨
春蘭や静御前の潜居の間
船渡御のごとく行き交ふ花見舟
寄席拍子にも花揺れて花揺れて
花疲開きしままの電子辞書
花の雨エンドロールの続きふと
四月二十三日 比奈夫誕生日
師在せば百と四つや亀の鳴く

寄り添うて連理の梅となる月日
山形惇子
句評 大和には「連理の梅」と呼ばれる紅白の梅があるらしい。このお句は作者の人生そのもの。
夫婦が寄り添い歩む月日を連理の梅に託し、心打つ一句となった。華凜
下を向く椿に落ちる覚悟かな
太田公子
句評 誠に潔よい詠みっぷりである。句会場の席題の机上の椿は下を向いていた。
その様子を作者は「落ちる覚悟」という措辞をもって賛美した。正に花鳥諷詠の心。華凜
春立つや紫淡き秀句選
藁科稔子
春風や映画と坂と猫の町
下田育子
春の雲「おうい」と呼びし暮鳥の詩
山田純子
春風に弾む子の声合格す
石川かずこ
瀬戸内に海道七つ秋の潮
竹原は安芸の小灘よ新走
魚飯てふ持てなしありて島の秋
高灯籠遊女の待ちし港かも
御歯黒の遊女伝説そぞろ寒
冷まじや地図より島の消されゐて
島島に黄落といふ明りあり
野ざらしの錨の錆や冬ざるる
大根干す平地少き島暮し
冬日濃し軒先低き漁師町
着ぶくれて網を繕ふ女かな
瀬戸内の風は西風干菜揺れ
出格子の粋な模様も小六月
冬菊を活けて閑かな郭跡
鷹渡る北前船のゆきし瀬戸
冬うらら船は風待ち潮待ちと
北窓を塞ぎ本陣てふ構
瀬戸内の入日を急す冬の海
暮早し海の関所に番所跡
からからと牡蠣引揚げて浜暮るる

染大島小粋椿の名を問うて
暖かや水屋見舞の京和菓子
錆びず落つ椿の清し実朝忌
手遊に折鶴立てて雛立てて
豆雛にしかと桧扇笏のあり
流し雛見送る空に昼の月
大津絵の鬼の念仏春の雷
辻神の魔除か京の沈丁花
図書館に指定席あり春手套

顔見世の墨染衣仁左衛門
青山夏美
凍鶴の一本足に身を托し
中谷まもる
逸れ羽子の色美しく風に乗る
小林一美
八十路てふまだ見ぬ道を恵方とす
森本昭代
薺粥炊かず朱塗りの椀も古り
竹下緋紗子
大試験寝ぐせの髪の撥ねしまま
石村和江