今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

近詠

田村節子

塩瀬の帯

八つ橋てふ香合置かれ夏座敷

火を遠く水を近くに夏点前

黒といふ涼しきものに楽茶碗

利休箸するりと逃げる蓴かな

夏帯にはさむ服紗は水の色

単衣着て塩瀬の帯に鉄線花

掛香に今日のお稽古粥点前

山形惇子

神坐す島

このあたり石州瓦植田風

あご飛んで水平線を高くする

荒海に乗る遊船の舵さばき

梅雨晴の落暉ローソク島灯す

闘牛の引分けてふは物足らず

後醍醐邸今を淋しと牛蛙

万緑や幾百の神坐す島

2023年7月の俳句

華凜主宰の俳句

薪能

草笛にあの日の風の記憶かな

立ち姿よき芍薬もそのひとも

 興福寺 薪能

薪能一差ごとに闇進む

後シテの般若現る青葉冷

番傘の内にぼうたん明りかな

松風に乾きし須磨の蛇の衣

触れてみて少し悔あり蛇の衣

鉄線花湯屋の小窓の夕明り

雨の日は文書く心額の花

雑詠 巻頭句

立てて弾く二胡の調べや柳の芽

中谷まもる

句評 二胡は中国の伝統的な擦弦楽器。その調べは郷愁と癒しを誘う。
この句から二胡の調べが風に乗って聞えたよう。曲は「蘇州夜曲」か。
「立てて弾く」と詠み「柳の芽」との取り合わせも上手い。 華凜 

雑詠 次巻頭句

暮の春九百号の稿仕舞ひ

太田公子

句評 作者は「諷詠」の割付けから最終校正まで全てに関わり、原稿も
彼女の自宅に届く。九百号に力を尽して下さった。「稿仕舞ひ」の安堵感が
伝わる。心より感謝。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

台本の無き人生や花は葉に

林 右華

中谷まもる副主宰選

思ひ出の中の桜は散らざりし

吉田るり

金田志津枝選

立子賞受賞の余韻虚子忌かな

石川かずこ

柳生清秀選

若葉風マスクはづして深呼吸

浅野宏子

同行二人競詠五句 お題「夏」

菅 恵子

健気に生きて

蜘蛛の子の蜘蛛より逃げて散りにけり

一本の風になりたる夏燕

蟻もまた健気に生きてをりにけり

ほととぎす促音上手く入れて鳴く

夏蝶や幾何学模様見せて死す

菅 ゆづき (12歳)

石の上にも三年

兜虫おおきな角がたくましい

イモリにもある石の上にも三年

あめんぼう足で水面ぽんとける

雨蛙緑のうわぎと白いシャツ

蝸牛うずまき型の家に住む

2023年6月の俳句

華凜主宰の俳句

父のこと

燭揺らすほどの風あり藤浄土

面影を十二単にまた重ね

十帖の賢木に栞春灯下

匂袋ひそと尼僧の小抽斗

風蘭の雨に匂へば父のこと

大牡丹開ききつたる女ぶり

花水木須磨近ければ紅の濃し

消息は風に聞くべし花卯木

上水の橋のたもとの風車

雑詠 巻頭句

開拓の果なき大地揚雲雀

川上康子

句評 「開拓の果なき大地」は作者の生まれた満州であろう。果なき
大地の上に広がる果なき空をぐんぐんとどこまでも高く雲雀が上りゆく。
十七音で何とも広大な世界を描いた。 華凜 

雑詠 次巻頭句

別るるは運命なれども桜貝

森本昭代

句評 「桜貝」はうす紅色の美しい貝だが壊れやすく儚くも思える。
この句は取り合せでその儚さを別れの運命と重ねた。昨年亡くなられた
ご主人様を偲んでいるようにも。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

山笑ふ大蛇号ゆく奥出雲

青山夏実

中谷まもる副主宰選

ポジションへ駆け行く球児風光る

福沢サカエ

金田志津枝選

国生みの海峡眩し麦を踏む

谷川和子

柳生清秀選

雪解の村ぢゆう軽うなりにけり

古山丈司

近詠

柳生清秀

畿内の春

耕の無駄なく動く老の鍬

八荒に魁荒るる浪速場所

遅咲の水仙こその秘むるもの

今泣いた子も楤の芽も笑む陽気

貝寄風の吹く住易き街なりし

葱坊主裏より入る飛鳥寺

蛍烏賊光尽して果てにけり

有本玲子

バックハグ

若夏や言の葉美し万座毛

島遥かテラスの朝餉石蓴汁

空に揺れ海に揺れゐて茅花の穂

沖縄の旅二期作の田植中

紅型に火の色燃えて仏桑花

バックハグして夕焼の水平線

くちなしの花枕辺に旅果つる

第3回諷詠大賞「諷詠大賞」の俳句

福本せつこ

野沢温泉村

牛蛙声ふるはせて北信濃

どの部屋も花の名つけて宿涼し

夏霧の晴れて絵本のやうな村

どこまでも夏野の続く野沢村

雲の峰戸隠山も妙高も

もろこしも玉子も茹でて麻釜の湯

汗かいて外湯めぐりも野沢村

人涼しあつ湯ぬる湯と教へくれ

外湯には小さき神棚髪洗ふ

大湯出てぶだうジュースと端居して

端居して真向ひに見ゆ道祖神

外湯出て祭提灯ともる頃

路地沿ひにたけのこ祭屋台の灯

たけのこ飯信濃の人のやさしかり

千曲川音頭聞こゆる祭かな

鯖󠄀缶も入れてたけのこ汁うまし

飯山に仏壇通り濃紫陽花

笹ずしの笹の葉ほのと北信濃

四十年ぶりに逢ふ人夏薊

水尾てふ涼しき地酒酌みかはす

2023年5月の俳句

華凜主宰の俳句

祝ぐ心偲ぶ心

三月十九日、立子賞を祝う会小石川後楽園

忘るまじけふ初花に会へしこと

春瀧の音に洗はれゆく心

鳥声のいくつ重なる春野かな

祝ぐ心偲ぶ心も花の雨

みな染る桜に触れて来し風に

けふの命けふを満たして花万朶

べつかふ飴薄暮透せて夕桜

この辻に夜叉となるやも花月夜

たましひの身を離れゆく花衣

雑詠 巻頭句

生まるるも逝くのも一度二月尽

小林一鳥

句評 「二月尽」に注目。花鳥諷詠を提唱した虚子の誕生日は二月
二十二日。作者も同じ誕生日らしい。昨年二月二十七日に汀子先生は
帰天された。一度きりの生を深く思う月。 華凜 

雑詠 次巻頭句

焼きし野のやがて寂しき風渡る

古山丈司

句評 ふと芭蕉の〈おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな〉を思った。
芭蕉の句は心の写生であるがこの句は野焼の風景を見事に写生された。
「寂しき風渡る」にある余情に感服。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

梅咲くや宝梅てふはよき住所

小林一鳥

中谷まもる副主宰選

毛のなかの羊とり出すやうに刈る

野村国世

金田志津枝選

初雪はをさなでゆきし子の匂ひ

石川かずこ

柳生清秀選

絵馬の裏まで書く受験志望校

福田三千男

同行二人競詠五句 お題「薄暑」

中谷まもる

坊ちゃん湯

「ビヤホール見たい」と書きし子規のこと

あぢさゐの青の途中の阿弥陀仏

百里来て伊予に聞き留むほととぎす

砥部焼の青の涼しきとんぼの絵

百を越す簾ぐるりと坊ちやん湯

金田志津枝

外壕通

師を祝ぐと外壕通ゆく薄暑

街薄暑若さは歩巾より溢れ

野草踏み行きて薄暑の香の立ちぬ

靴濡らし沢渡りゆく薄暑かな

君と会ひ別れし小石川薄暑

2023年4月の俳句

華凜主宰の俳句

命名

春待つや臨月の娘は髪切つて

梅早し日矢射すところ兆あり

  令和五年二月七日 初孫誕生

産声に開きて今朝の梅真白

素数の日選りて二月に生れたる

新生児指まだ解かず蕗の薹

命名の墨黒黒と梅真白

草萌えてふくふくしたる埴輪かな

おはじきもおじやみも卓に雛の間

雛飾り嫁して娘のをらぬ家

雑詠 巻頭句

滝凍る月に青さを貰ひつつ

今城 仂

句評 鋭い感性の写生句。その美しい景に一瞬で心を奪われた。真っ白な
滝の水が夜になり青さを宿しつつ凍ててゆく。「月に青さを貰ひつつ」の
措辞にしびれた。 華凜 

雑詠 次巻頭句

紙を漉く吉野の水は痛かりし

今井勝子

句評 一読、国栖の里へ紙漉きを見に行った日の記憶が甦った。吉野は
清らかな水の里。その寒の水を使った紙漉きは清らかであるが故に冷たく
手に痛い。「痛かりし」に全てを記し見事。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

読初は待ちに待つたり諷詠誌

立花綾子

中谷まもる副主宰選

グランドに残る足あと日脚伸ぶ

足達晃子

金田志津枝選

これよりの余生いとほし冬すみれ

森本昭代

柳生清秀選

三枚の肩たたき券お年玉

古宮喜美

近詠

永嶋千恵子

武蔵野

武蔵野に富士あらはるる初景色

ざわざわも清しき音よ初詣

七種は身近なものの三鷹産

お神酒うけ火の勢ひ立つどんどかな

一瞬に神の加護ありどんどの火

火の色に徳といふものとんどの火

灯すごと社の門の寒つばき

小林小春

ブレスレット

跳びはねる金ンの兎絵初便り

書初や小さき児の手を支へつつ

母が書き龍の一文字凧揚げる

御神渡り期待の湖岸氷り初む

残雪の甲斐仙丈の夕茜

春兆す男の子の腕のブレスレット

梅香る南信州我が生地