今月の俳句」カテゴリーアーカイブ

2023年3月の俳句

華凜主宰の俳句

海の街

風花の美し海の街なればなほ

早梅に夜明けの前といふ香

深海の音を潜めて竜の玉

雪降りてうそのまこととなりにけり

初天神お師匠さんと会いにけり

寒紅をさす別れ告ぐその前に

束ねても香一本水仙花

息継ぎもできぬ恋文懸想文

路地に遊ぶや京風の寒すずめ

雑詠 巻頭句

寒柝の一打に星の瞬きぬ

足達晃子

句評 寒柝の音を通じて、冬の澄みきった夜空や冷たい空気感まで
伝わってくるよう。この句を見た瞬間、昔行った白川郷の星空を思い
出した。季題から季節全体へと広がる秀句。 華凜 

雑詠 次巻頭句

顔見世にゆかねば京の人ならず

黒田泰子

句評 「京の人」に注目。最近京都に引っ越してきた人という訳ではなく、
百年、いや応仁の乱以前から続く家系を「京の人」というと聞いたことがある。
「顔見世」にゆかねば。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

天心へ寒月固く上りけり

信貴 宏

中谷まもる副主宰選

来る人のなき元日の薄化粧

浅野宏子

金田志津枝選

色変へぬ松色変へぬ紀伊の石

中谷まもる

柳生清秀選

ペダル踏む顔に北風貼りつけて

宮下美和子

同行二人競詠五句 お題「春風」

小林一美

花菜風

花菜風子ども歌舞伎の紙垂揺らす

夕東風の一つ灯りし舟屋かな

さし網に白波立てる鰆東風

練りあげし奈良墨匂ふ涅槃西風

伊根なれや春風弾む舟屋口

井阪陽子

牛窓の春

春風や島影とほく瀬戸の凪

牛窓の丘より瀬戸の四方の春

牛窓や春まだ浅き港町

ぢいの背ナひ孫の背ナを春の風

春風やこころまあるく四世代

2023年2月の俳句

華凜主宰の俳句

冬の宮

純白のシテの装束冬の宮

さみしさは文には書かず冬ごもり

埋火や小面何か言ひた気に

南座は近くて遠し都鳥

蕪村忌の京島原にちらと雪

着流してこその文士の褞袍かな

三味の音も小唄も松原屏風より

玉三郎醜女も演ず古暦

喪に服すことも忘れて河豚食ぶる

雑詠 巻頭句

もみぢ散ることさへ涙もろくゐる

吉田るり

句評 俳句には感性が大切。作者の純粋で美しい感性には常より感心
している。この句を見た瞬間、作者の心が筆者に深く伝わり共鳴した。
選後に作者のご主人様が年末にお亡くなりになったと。心よりご冥福を
お祈り致します。 華凜 

雑詠 次巻頭句

路地一つ違へて迷ふ近松忌

久保田まり子

句評 「近松忌」という季題をよく捉えている。近松の心中物をふと思い
出す。生きる事を道とし、その路地を一つ違えてしまうこともあると。
暗喩の見事な句。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

過ちの二つや三つ木の葉髪

太田公子

中谷まもる副主宰選

先見ゆる暮しに慣れて日向ぼこ

古山丈司

金田志津枝選

月食の闇を楽しむ初冬かな

井田國敬

柳生清秀選

噛み合はぬ会話の弾む日向ぼこ

黒津知江子

近詠

髙木利夫

みちのく晩秋

牧閉ざす日の杣道の風粗し

遠野てふ名にみちのくの秋深む

南部曲屋の馬塞にも柿すだれ

星空に濡るる一夜の秋の宿

わが知らぬ町の一日の秋まつり

南部囃子や相伝の帯締めて

どんどはれにて炉咄も尽きにけり

林 右華

大綿日和

歴史訪ふ思ひ思ひの冬帽子

古墳へと冬紅葉また冬紅葉

冬ざれのどの石室も傾ぎをり

大綿に風土記の丘といふところ

大綿や史実はいつも哀しかり

太子の里訪ひし大綿日和かな

帰り花ここは太子の眠る里

2023年1月の俳句

華凜主宰の俳句

冬の瀧

情念は白にもありぬ冬の瀧

落葉踏むたび俗界の遠くなる

やはらかく散つて山茶花見頃なり

綿虫の音なき刻の中に住む

冬日差す行者そばには紅葉の麩

熱燗といふ句心の生れどころ

日向ぼこけふの生きたる音の中

柚子一つ月に見立てて里の湯屋

千両を小さく活けて商へる

雑詠 巻頭句

銀閣の銀沙ひときは今日の月

石井のぼる

句評 言の葉の魅力を感じる。読み下した瞬間、月光の静謐な煌めきが
波のように見えてくる。銀閣寺の銀沙には京都特産の「白川砂」が
使われている。「今日の月」が「ひときは」美しい。 華凜 

雑詠 次巻頭句

ベビーベッド窓辺に移す秋日和

太田公子

句評 何と愛情溢れた句であろうか。ベビーベッドの中には小さな命が
眠っている。時折、手足がぴくりと動く。秋の日差しの明るい窓辺へ
ベッドごと移動させる母心。祖母心。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

水澄みぬまことの水のいろとして

今城 仂

中谷まもる副主宰選

制服の父は詰所に秋祭

大西芙紗子

金田志津枝選

里帰りして地芝居の吉良の役

髙木利夫

柳生清秀選

新蕎麦をたぐりし後の寄席太鼓

古宮喜美

同行二人競詠五句 お題「新年詠」

柳生清秀

小さき平和

一病もなきは善し悪し去年今年

除夜の鐘聞きて兎に迎へらる

膳に載る年酒缶入ハイボール

初詣小さき平和願ひけり

皺寄るが倖多かれと宝船

鈴木貞雄

一歩踏み出して初日を拝しけり

国宝の一の宮より初詣

筆鋒の一という字を筆始

真田紐解いて一と振り初稽古

魁の瑞の一枝の梅白し

2022年12月の俳句

華凜主宰の俳句

子の名あれこれ

秋晴を明日香に遊び使ひきる

色草のどちら向きても正面に

真弓の実嘘のつけない我ならむ

一稿を上げて式部の実を揺らす

水清き里に嫁ぎて貴船菊

生れ来る子の名あれこれ小鳥来る

戌の日に腹帯もらひ冬仕度

秋まつり子役は母の紅つけて

木の実降る日向日陰の音立てて

雑詠 巻頭句

旅情ふと月があまりにきれいから

谷川和子

句評 話をするように俳句を詠む作者。関西育ちの筆者の心には
「きれいから」という神戸弁が響いた。仲秋の名月の美しさに旅情が湧く。
 華凜 

雑詠 次巻頭句

また霧の迎へくれたる丹波行

有本美砂子

句評 この句を読み下した瞬間、丹波の山々を覆う霧の景が浮んだ。
筆者は丹波に住んでいたことがあり、この時期の霧の幻想的な雰囲気を
思い出した。「迎へくれたる」がよい。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

子規佇ちし芋坂に佇ち十三夜

吉永友子

中谷まもる副主宰選

駅員の外す貼紙燕去ぬ

太田公子

金田志津枝選

のぼさんと呼れ親しき子規忌かな

柳生清秀

柳生清秀選

ねぶた師の妻が目を描き出来上る

梅田咲子

近詠

谷川和子

小鳥

一人遊び好きな小鳥をみて飽きず

誰も来ずメールも無き日小鳥来る

小鳥来る図鑑繙く指忙し

唇に指立てて小鳥のゐる合図

探鳥会の人には見えている小鳥

小鳥来るしあはせいつぱい振り撒いて

この森が好きで幾千鳥渡る

下田育子

赤阪村

槌音のよく響く日や稲架を組む

お天道様尊ぶ暮し稲架かける

一村に余りあるほど秋晴るる

天空に近づく棚田曼珠沙華

稲の束背負ひ嬉しき重さなり

栗ごろごろ赤阪村の栗御飯

穫り入れを了へて棚田に十三夜

2022年11月の俳句

華凜主宰の俳句

月の女人

冷やかや面の内より見る浮世

万葉のうたを携へ月の道

松風も水音も月の客として

良夜かな有馬の湯女の赤襷

湯浴みして月の女人となりしかな

妓の仕草真似ていただく月見酒

宴更けてますほの芒壺に足す

秋草のなべて王朝風なりし

江戸の世の旅は徒なり秋の風

雑詠 巻頭句

一葉落つ先の一葉を追ふやうに

古山丈司

句評 「一葉」を心で深く観て写生し、平明な言葉で句にされた。
天地自然の理と人生のそれとを重ねられた作品となっている。作者の
作風には魅力がある。 華凜 

雑詠 次巻頭句

大花火しだれて黒き信濃川

中谷まもる

句評 一読「しだれて黒き信濃川」の措辞に心を奪われた。信濃の
真っ暗な夜を大花火が照らし、川へとしだれ落ちる。明と暗の対比。
刹那の美。 華凜

誌上句会 特選句

和田華凜主宰選

己が影見つめるばかり思ひ草

吉田るり

中谷まもる副主宰選

わが痛み探り当てたる竹婦人

藤垣幸子

金田志津枝選

九重より阿蘇の空へと天の川

岡田隆太郎

柳生清秀選

大根蒔く元校長の無精ひげ

蟻川美穂

同行二人競詠五句 お題「帰り花」

森本成子

息止めて

息止めてゐしごと咲きて帰り花

美術館裏の静けさ帰り花

帰り花隠し櫓の跡にかな

帰り花明日香猿石亀石と

帰り花離れはつきり見えてきし

黒津知江子

御座船

京都御所公開の日の帰り花

主なき京都御所なる帰り花

御座船の浮ぶ内堀帰り花

仲間よりはぐれて会ひし帰り花

帰り花昨日一輪今日二輪